No Longer Human

 

卒論も終わったので、『人間・失格〜たとえばぼくが死んだら』というドラマを見た。

“懐かしのドラマ”だとか”伝説のシーン”とか、そういう類の言葉を謳った番組では必ずと言っていいほど登場する作品である。同じくその内容の過激さでたびたび話題に上る『高校教師』というドラマを手がけた野島伸司氏が脚本を担当しているので、然もありなんといったところであろうか。

 

1994年の夏クール(7-9月)にTBS系の「金曜ドラマ」枠で放送された。KinKi Kidsのイメージがあまりにも強く、主演だと勘違いされることも多いが、あくまでもドラマ全体の主演は赤井英和である。

 

このドラマは情報量が多すぎるので、簡潔に言い表すことが私にはできないが、まず間違いなく明るい話ではない。現在よりもコンプライアンスが遥かに緩かったはずの当時ですら批判が殺到したという。残念なことに1話からいじめや体罰のオンパレードで、しかもその描写が半端ではない。所持品を隠されるとか教科書に落書きされるとかそのレベルで済めばいいが(決してよくはないけれど)、このドラマはそんなに甘くない。襟足をライターで炙ったり、給食に釘や鉛筆を削りカスを入れたり、プールで失神寸前まで水中に沈めたりと、もう書くだけできついものばかりである。中でも精神的にかなりキてしまったのは、手足を縛り、口をガムテープで塞ぎ授業中に掃除用具のロッカーに閉じ込め失禁させるシーンである。あまりにショッキングだったので映像を一時停止してしまった。

 

さて、この壮絶ないじめのターゲットとなったのは転校生であり、大場誠という名前なのだが、この役を演じたのが、他でもない堂本剛くん──私の推し──である。

 

そもそも、こんなつらい思いをしてまでこのドラマをわざわざ見ようとしたのはドMだからではなく、単純に剛くんが見たかったからである。放送当時14歳だった彼は思春期真っ只中、可愛らしさが爆発している。彼自身の少し影のある雰囲気と、この役柄との親和性が高すぎて、誠役に剛くんをキャスティングした人に勲章を授与させていただきたいとさえ思う。

 

そして剛くんの相方である堂本光一くんももちろん出演している。彼は誠のクラスのクラス委員で、周りから一目置かれる存在の優等生・影山留加を演じている。彼の容姿は15歳にしてすでに完成されており、世の女性を虜にする王子様の片鱗が見える。ただ、やはりこのぐらいの年齢によくあることだが、肌や唇が乾燥している様子が見て取れて、保湿クリームを塗ってあげたい気持ちになる。

 

この誠と留加の関係性も、本作が衝撃的と言われる理由の一つである。誠は転校初日に留加と最初の友達となるが、次第に留加は友情を超えた、誠への愛情に目覚めていく。そしてある日、体育教師による体罰のせいでプールで気を失い倒れた誠に留加は顔を寄せる。感情の読めない瞳が揺れ、そのまま2つの唇が重なる。これはTVでも何百回と取り上げられてきたシーンなので、ここだけを切り取ったら見たことがある人も多いと思われるが、やはり前後の文脈を知った上でこのシーンを見ると、ただ衝撃的なだけではなく、切なさや儚さ、それらにより拍車のかかった耽美さが垣間見え、やるせない気持ちになる。

 

なぜなら、このキスシーンがあるのは3話の最後なのだが、4話以降は教師の策略により留加さえも誠を率先していじめるようになってしまうからである。「世界中が君の敵になっても僕だけは味方だよ」というJ-POPにありがちな歌詞よろしく、クラス中から誠がいじめられていても留加だけはひっそりと寄り添う。視聴者としてはこのまま2人だけの世界が広がればいいとひたすら願うが、そうは問屋が卸さない。

 

ある日の授業中、誠は教科書の中に写真が1枚挟まっているのを見つける。それは誠とも親交のあった留加の母親の悪質なコラージュ写真で、首から下がグラビアアイドルか何かの肉感的な身体になっていた。この写真が2人の歯車を狂わせることになる。もちろんこの写真に誠は一切関与していないにも拘らず、策略により誠に母親を辱められたと思い込んだ留加はクラスメイトの1人を屋上に呼び出し、唐突に彼の腕を折る。そして留加は、誠にやられたと言うようにと彼に命令し、誠は身に覚えのない罪を着せられることになる。この一件で誠に対するいじめはエスカレートし、先述したような、見ていると心臓がえぐられる場面が多く出てくる。

 

さらには学校だけではなく家庭でも、悲劇は容赦なく誠を襲う。誠は理解者であったはずの父親(赤井英和)からも信用されなくなり、朝になって登校拒否しようとしても父親に殴られ、強制的に学校へ行かされる。

 

まさに四面楚歌の状況に追い込まれ、精神的な限界を迎えた誠は逃げるように転校前の学校がある神戸に向かう。誠は実母を亡くしており、そのお墓があるのも神戸である。誠がお墓の前でうずくまり泣いていると、なんと東京からお墓詣りに来た父親が現れる。これは父親が誠の行動を読んだのか直感なのかはわからないが、とにかくこのお墓の前で2人は遭遇する。涙にくれる誠の姿を見て、父親は「元の学校に戻るか」と言葉をかける。その言葉が、永久凍土と化していた親子の関係を溶かし、2人は昔のように仲の良い親子に戻る。

神戸の街で、親子2人の束の間の楽しい時間を過ごし、夜になって東京へ帰る道中、誠は神戸の学校には戻らないと父親に宣言する。その理由は神戸に戻ると東京で父親が経営するラーメン屋を閉めなければいけなくなり、借金が残ってしまうことを誠が憂慮したためであった。なんとも健気な少年である。

 

翌日、誠は宣言通り登校する。それも、いじめられていたなんて信じられないような笑顔で。

しかし、悲劇は終わっていなかった。誠は屋上に呼び出され、そこでは残酷にもかつて愛情を交わしたはずの留加が誠に注射器を突きつける。結局留加は腕に針を刺す寸前で怖気付き未遂に終わるが、1人の生徒が留加から注射器を奪い誠を追い詰める。恐怖のあまり、誠は足場の悪い屋根の上まで逃げてしまう。その姿を見た留加は以前の想いを蘇らせたのかそれともただ単に深層にある正義感がそうさせたのか、誠に手を差し伸べる。だが誠は留加を信じることができない。誠は留加の手を拒み続け、最後は足を滑らせて転落してしまう。

誠は病院に搬送され、手術により一命は取り留めるものの、その後容態が急変し死んでしまう。周りの人間が死人に口なしとその死を嘲笑う中、留加は精神的なショックを受け自傷行為に走る。それもリストカットなどという生温いものではなく、頭から血が出るまで机や壁に頭を打ち付けるという激しいものである。やがて誠の死は自分のせいだと自責の念に駆られた留加は昏睡状態に陥り、最終的には幼児退行してしまう。

深い眠りに落ちながらも、無意識に誠の名前を呼ぶ姿は胸が張り裂けそうになる。その心には誠への愛情は残っていたのだろうか──

 

誠は命を落とし、留加は命はあるものの精神が崩壊する。この結末およびここに至るまでの残酷な過程を背景にもう一度2人のキスシーンを見ると、それはジャニーズ事務所所属の、14歳と15歳の少年がキスをするという表面的な衝撃や視覚的な美しさのみをもって語ることは到底できないだろう。最上級の愛情表現が、薄れていく愛情と募る不信の前触れとなっているのだから。そう考えると、この一見始まりのように見えるキスが私には別れのキスに見えてしまい、突如として絶望的なシーンになる。

 

しかしこの絶望さえ美しいと感じてしまうのは、KinKi Kidsの才能や2人(ftr)の雰囲気のおかげだと思わずにはいられない。だからやはりこのドラマにKinKi Kidsをキャスティングした人のセンスは神がかっていると思う。

 

ドラマ自体は全12話であり、いま語ったのは1-5話中心である。6話以降は誠の父親が誠のいじめに関与した人間に次々と復讐していくという内容であり、こちらはこちらで壮絶である。例を挙げるとキリがないが、誠に執拗な体罰を加えていた体育教師は、誠の父親によりラーメン屋の岡持で殴られ弱ったところを、誠にしたのと同じように、プールに無理やり沈められて殺される。確かに受けるべき罰を受けたのだが、これがカタルシスになるかと言われれば微妙である。これでも足りないぐらいのことを誠にしていたのに、むしろ気が重くなってしまう。 

 

最終回は体育教師を殺害した誠の父親が出所し、妊娠していた誠の継母と生まれた誠の異母弟、そして誠を見守り続けていた誠の担任教師が7年の年を経て再会する場面で終わっており、一応ドラマとしては僅かながら希望の見えるラストなのだが、誠と留加に関してはひたすら悲しいだけである。愛情で結ばれていたのはほんの一瞬、その後は文字通り地獄のような日々が続く。留加は誠をいじめてはいたが、それも留加に歪んだ想いを寄せる教師の策略であり、留加も被害者なのである。どう頑張っても救いようのない展開である。それでも(何度も言うが)、そこにある種の美しさや愛しさを見出させてくれたKinKi Kidsにも制作陣にも心から感謝している。

 

TVで何度も特集されてきた誠と留加のキスシーンにつられて見たものの、想像以上に苦しいドラマだった。けれどやっぱり見てよかったし定期的に見返したいとも思う。個人的にはDVDのVol2とVol3にそれぞれ収録されている剛くんと光一くんのインタビューが大好きである。どちらも40秒程度しかないのだが、まだ声変わりしていない声とあどけない笑顔が、ドラマを見て受けたショックと日頃のストレスを全て癒してくれる。特に光一くんのインタビューは画角も答え方も『清純派ピチピチの18歳・待望のデビュー』などと銘打たれた作品を彷彿とさせるので余計に興奮する。

 

この作品は誠と留加以外にも見どころがあるので、それを見て壮絶なシーンの息抜きにして欲しい。

まず誠と留加の担任教師・森田千尋を演じる桜井幸子がとにかく可愛い。少し垢抜けない感じがいじらしくて守ってあげたくなる。誠と留加を裏で追い詰めたのは加勢大周演じる新見という教師なのだが、新見と千尋は序盤で結婚を前提として付き合うことになる。千尋が家に来た新見のために手料理を振る舞うシーンでは、新見が「エプロン似合うね。学校の服装よりも、ずっと」と千尋のエプロン姿を褒めるのだが、このときばかりは悪役の新見に心から同意した。ドラマではもちろん描かれていないが、この夜2人はキッチンでエプロンプレイをしたに違いない。

もう1つは、件の体罰体育教師の女装姿である。彼は40歳を過ぎても結婚できず、頻繁にお見合いに行っているのだが、その外見からか性格からか、悉く失敗している。いつものように失敗に終わったお見合いの帰り道、自棄になった彼は女装クラブに向かう。そこで「大丈夫。アタシは普段は大蔵省に勤めてるの」というパワーワードで迎えられた彼は俄然乗り気になり、クレオパトラカットのウィッグをつけ化粧もばっちりして、女物の服に身を包みコンビニでの買い物を決行する。周りの人は明らかに気づき引いているが、好奇の視線をものともせずむしろ心なしか興奮した様子で歩く彼の姿は誰得なAVを見ている気持ちになって少しだけ心に余裕ができる。

 

学生時代の時間に余裕があるときにこの作品を見ることができてとても嬉しかったし、最近になって突然沼に落ちてしまったKinKi Kidsをもっと好きになることができて本当によかった。2020年が始まってすでに10日が経ったが、今年はKinKi Kidsに全力で愛を注ごうと固く誓い、雨のMelodyを聴きながらこれを書いている。